はじめに
乳幼児から児童期にかけての発達を評価するツールには遠城寺式や津守式乳幼児精神発達診断法、新版K式など様々な指標があります。その中でも「新版K式発達検査」は多職種の現場で広く活用されています。特に理学療法士として、運動発達を中心に子どもの全体的な発達を把握することは、介入計画を立てる上で重要であり、発達検査の結果を解釈できるようになるとメリットは非常に大きいと思います。
本記事では、新版K式発達検査の概要、理学療法士としての活用方法、そしてその意義について解説します。
新版K式発達検査(Kyoto Scale of Psychological Development)とは?
子どもの発達にかかわる研究者や臨床家により1950 年代に開発された発達評価ツールです。創刊以降も改定を重ねながら2020年12月に「新版K式発達検査2020」が刊行されています。
新版K式発達検査は、乳幼児(生後100日)~成人を対象にした発達検査で、以下の3つの領域を評価します。検査により、子どもの発達の全体像と年齢に応じた発達の偏りを客観的に評価します。
新版K式の成り立ちや概要、新版K式発達検査を使用した事例紹介なども含めた文献もご紹介するので参考にしていただけると幸いです。
評価領域
検査は下記の3領域で評価を行います。
✔姿勢・運動領域:運動能力や姿勢保持能力
✔認知・適応領域:課題遂行能力や問題解決能力
✔言語・社会領域:言語理解や社会性
検査は3領域合わせると合計300以上の項目がありますが、すべての項目を行うわけではありません。被験者の状態に合わせて、検査者が実施する項目の順番や数を臨機応変に対応します。検査自体は1時間程度で行われることが多いです。
検査結果
新版K式発達検査の結果は「発達年齢」と「発達指数」で算出されます。また検査を実施した心理士さんが検査時の様子やアドバイスなどを含めたコメントも検査報告書に記載されていることがあります。
なお注意点として、新版K式の検査結果だけですべてを判断しないようにしましょう。検査中のお子さんの集中力や機嫌などにより、100%のパフォーマンスが発揮できているとは限りません。あくまで、一つの指標として捉えておく必要があります。
発達年齢(DA: Developmental Age)
発達が何歳相当なのかを示す指標です。
発達指数(DQ: Developmental Quotient)
発達指数=発達年齢÷生活年齢(本人の実際の年齢)x100で算出します。
発達年齢が生活年齢と同じ場合は、「DQ=100」となります。
例)発達年齢12ヶ月・生活年齢1歳4ヶ月(16ヶ月)の場合、12÷16×100=(発達指数)75
発達指数(DQ)を算出する目的は大きく2つあります。1つ目は対象のお子さん1人1人に応じた発達状況を理解すること、2つめは各々の発達段階に応じた適切な支援を提供するためのヒントにすることです。
特徴
おもちゃなど普段子どもが接することの多いものを使用して、子どもの反応を観察します。検査自体は遊び感覚で取り組める課題が多く、子どもの自然な行動が観察しやすいとされています。
✔各領域ごとに発達の強み・弱みを分析することができます。
✔保護者からの情報収集を活用し、子どもの日常生活に即した評価を行えます。
理学療法士としての視点:新版K式の活用方法
運動発達の評価
新版K式の「姿勢・運動領域」は、理学療法士にとって特に重要です。この領域の評価により、子どもの筋力、バランス、協調性などの運動能力を詳細に分析できます。
多領域のバランス確認
発達の偏りがある場合、その背景にある運動機能や認知能力の課題を特定しやすくなります。たとえば、運動の遅れが言語や社会性の発達にも影響を与えることがあるため、全体的な発達像を把握することが大切です。
各々のお子さんの【得意】と【苦手】を把握することで、得意な項目を更に伸ばしたり、得意なことを応用することで苦手を減らすことはできないかなど、今後の支援へのヒントにすることができます。
介入計画の立案
新版K式の結果を基に、子ども一人ひとりの特性に合わせた理学療法の介入計画を立てることができます。理学療法士であれば、発達検査の結果だけでなく個々の姿勢や運動機能の確認を行い、総合的に評価を行っていく必要がありますが、新版K式などの発達検査は対象児の全体像を把握しておくために非常に有用なツールであると思われます。
保護者への説明と指導
検査結果は、保護者にとって子どもの発達を理解する貴重な情報源となります。新版K式を活用することで、家庭でできる具体的な支援方法を提案する際の説得力が増します。
経時的な変化の確認
定期的な新版K式発達検査の結果を確認できる場合、各領域がどのように成長しているのかを把握し、今後の理学療法プログラム変更の参考にすることができます。特に理学療法分野では質的な評価が多くなってくるため、発達検査など数値化された指標は、児の経時的変化を明確に捉えることができるので、非常に有用な指標になると思われます。
新版K式の利点と課題
利点
- 総合的な評価:運動、認知、社会性を含む多領域を評価できる。
- 発達の偏りを把握:特定の領域における遅れや強みを明確にできる。
- 介入計画に活用:子どもの発達に合わせた個別計画を作成可能。
課題
- 検査に時間がかかる:特に低年齢児の場合、集中力を保つのが難しい場合がある。
- 評価者の熟練度が影響:結果の信頼性は評価者の経験に依存する部分がある。
- 継続的な再評価が必要:発達は段階的に進むため、一定期間ごとの再評価が求められる。
参考文献
- 発達障害理学療法分野で使用している評価法に関するアンケート調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/srpt/2/1/2_2_19/_pdf/-char/ja - 新版K式発達検査の特徴と現場における臨床的応用
https://core.ac.uk/download/pdf/277538709.pdf - 医療機関の発達外来における新版 K 式発達検査の利用を中心に
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasdd/43/4/43_352/_pdf/-char/ja
まとめ
新版K式発達検査は、乳幼児から小学生までの発達を多角的に評価する有用なツールです。理学療法士として、この検査を活用することで、運動発達を中心とした子どもの全体的な支援が可能になります。特に、早期介入を通じて、子ども一人ひとりの可能性を最大限に引き出すために、新版K式は欠かせない存在になると思います。
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