はじめに
神経学的な検査にはさまざまなものがありますが、腱反射も手軽に行える重要な指標の一つです。腱反射は、運動発達の状態や中枢神経系の機能を評価するために用いられます。しかし、小児期の腱反射は成人とは異なる特性を持ち、成長とともに変化するため、適切な理解と評価が必要です。理学療法士が日々の臨床で腱反射検査を行う場合、その特性を理解しておくことが必要になります。
本記事では、小児の腱反射の特性、検査方法、そして評価の意義について詳しく解説します。
小児期の腱反射の特徴(発達に伴う変化)
腱反射の基本メカニズム
腱反射(deep tendon reflex:DTR)は、脊髄の反射回路(反射弓)を利用した無意識の運動反応です。筋紡錘が刺激を受けて感覚神経が興奮し、その情報が脊髄の運動神経に伝わって筋収縮が起こるという仕組みです。この回路は、脳の関与なしに短時間で反応が起こるため、神経系の機能を評価する重要な指標となります。
小児期の腱反射の特性
新生児や乳児の神経系は未発達なため、腱反射の出現や消失には特徴的なパターンがあります。
新生児期〜乳児期(0〜12か月)
この時期、反射は一般的に過敏で、亢進(過剰な反応) していることが多い。そのため、亢進しているか否かではなく、左右で明らかな差があるかを確認することが臨床的な指標とすることが多い。
原始反射(モロー反射、バビンスキー反射など) が優位にみられる。
幼児期(1〜5歳)
中枢神経の抑制機能が発達し、腱反射は成人と同様の形に近づく。
バビンスキー反射(足底の刺激により母趾が背屈し、他の趾が開く反応)は 1歳半〜2歳ごろまでに消失 するのが正常。
学童期(6歳〜12歳)以降
成人と同じく、腱反射は通常の範囲内に収まる。
反射の低下や消失がみられた場合は、末梢神経障害や筋疾患の可能性を考慮する。
2. 小児の腱反射の評価方法
一般的に評価される腱反射
小児の診察において、以下の腱反射がよく評価されます。
- 上肢の腱反射
- 上腕二頭筋反射(C5–C6)
- 上腕三頭筋反射(C6–C7)
- 橈骨骨膜反射(C5–C6)
- 下肢の腱反射
- 膝蓋腱反射(L2–L4)
- アキレス腱反射(S1–S2)
- 病的反射(異常反応の確認)
- バビンスキー反射(2歳以上で陽性なら異常)
- クローヌス(連続的な筋収縮)(3回以上の連続反応は異常の可能性)
検査の方法と注意点
- 小児は緊張しやすいため、リラックスした状態で行う。
- 必要に応じて、遊びを取り入れながら評価を行う。
- 乳幼児期は全体的に亢進気味になっていることがあるので、片側だけでなく両側を比較することで、異常の有無を判断する。
3. 小児の腱反射検査の意義
腱反射検査は、発達過程における神経学的な異常を早期に発見するために重要です。
神経系の成熟度の評価
小児の腱反射の発達は、中枢神経系の成熟を反映しています。特に、バビンスキー反射が2歳以降も陽性の場合は、中枢神経障害を疑う必要があります。
脳性麻痺や発達障害のスクリーニング
- 脳性麻痺(CP) の場合、腱反射が亢進し、病的反射(バビンスキー反射やクローヌス)が認められることがある
- 一方、筋ジストロフィー などの疾患では、腱反射の低下または消失がみられることがある。
末梢神経障害や筋疾患の発見
- ギラン・バレー症候群 などの疾患では、腱反射の低下が早期発見の手がかりになる。
- 脊髄疾患(脊髄性筋萎縮症など) の場合、腱反射の異常がみられることがある。
小児の腱反射と発達の関係に関するエビデンス
小児の腱反射と発達に関する研究は多数あり、以下のような論文が参考になります。
J-STAGE(日本の研究論文)
- 「小児の腱反射の発達とその臨床的意義」(日本小児科学会誌)
- 小児期の腱反射の発達過程について詳細に記載されている。
- 「脳性麻痺児の腱反射と神経発達」(日本リハビリテーション医学会誌)
- 脳性麻痺児における腱反射の異常所見について分析。
PubMed(海外の研究論文)
- “Development of Deep Tendon Reflexes in Infants and Their Diagnostic Relevance”
- 小児の腱反射がどのように発達するかを示した研究。
- “Hyperreflexia and Developmental Disorders in Children”
- 発達障害児の腱反射の異常について述べた論文。
まとめ
小児の腱反射は、発達評価や神経疾患のスクリーニングにおいて非常に重要な指標です。
- 腱反射は年齢とともに変化する ため、発達段階に応じた評価が必要。
- 異常な腱反射は、中枢神経障害や筋疾患の可能性を示唆する ことがある。
- 適切な検査方法とエビデンスに基づいた評価を行うことが、早期発見・早期介入につながる。
